県内の活動紹介 〜地域や関係者の取組〜
世羅町の見守り活動について
世羅町の取組
人口の減少と高齢化は中山間地域や離島地域では共通の課題です。一人暮らしや高齢者だけの世帯が増加し、また、地域全体の人口が減少していることから、地域の助け合い、目配りが一層大切なものとなっています。
世羅町も同様の課題を抱えていますが、世羅町民生委員児童委員協議会(民児協)の発意により、平成23年(2011年)10月、高齢者や子供達が安心して暮らせるまちづくりを目的として、町及び民児協と地元の郵便局、新聞販売所、尾道市農業協同組合が「世羅町における地域見守り活動に関する協定書」を締結しました。
この見守り活動は、事業者等が日常の業務の中で住民の異変(新聞や配達物がたまっている等)を察知した場合に、町や民児協に連絡し、町や民生委員は速やかに関係機関(警察・消防等)への連絡など必要な支援を行うというものです。
協定締結から2年、世羅町の見守り活動の成果や課題について、世羅町民児協会長の泉谷貢さんにお話を伺いました。
世羅町民生委員児童委員協議会会長 泉谷貢さん
活動当初の苦労
この活動を始めたころは、住民にまだ十分知られていなかったため、民児協の会議など、折に触れて周知を行ってきました。その結果、独り暮らしの方が入院や旅行などで留守をする時に、新聞販売所や郵便局へ連絡を入れてくださるなど、徐々に住民に知られるようになりました。
一方で、苦情を言われる場合もありました。ある時、独り暮らしの高齢者のお宅に新聞や郵便物が溜まっていたため、おかしいと思われた新聞配達員さんが民生委員さんに連絡し、民生委員さんが調べたところ、その方は入院していることが分かりました。しかし、その後、ご本人から「入院のことは、誰にも知られたくなかった。」と苦情がありました。
この活動は、ある面、おせっかいととられる場合があります。しかし、人の命は何よりも優先します。ご本人にはこの活動の趣旨を丁寧に説明し、理解していただきました。
取組の成果について
新聞配達員さんが、あるお宅で、普段はついていない電気が点いている、玄関の鍵がかかっていない、いつもはある車がない、といった普段とは違う様子に気づいたので注意していると、少し離れた場所の車の中で本人が意識朦朧としているところを発見した、といった事例や、郵便局員さんが来局された高齢者の様子がおかしいことに気づき、民生委員に連絡した、といった事例等があります。
いずれも、認知症が進んでいることがわかり介護サービス等を受けることになりました。気付くことと連絡することだけですが、周囲の方がその意識を持っておられたからこそ助けてあげられたのだと思います。
このほか、高齢者宅の前に不審な車が止まっていて見知らぬ人が家に上がりこんでいる、お節料理を配りに行ったが家人から応答がない、などこれまで様々な情報が寄せられており、その都度民生委員が現場に行き、必要に応じて警察を呼ぶなどの対応をしています。
民児協の活動
高齢者の方は、外へ出ることが難しい方もいらっしゃるので話し相手が必要です。話すときには、聞き役に徹して、とにかく話をじっくりと聞くようにしています。世間話の中から、言い出しにくかった話が出てくることもあります。
世羅町では,1人の民生委員が、約100世帯を受け持っており、当該世帯のうち10~20人が独り暮らしの高齢者です。民生委員は、一人暮らしの高齢者宅を月に1回程度訪問し、1~2時間、話し相手として、時間をかけて話を聞くようにしています。
訪問の際には、話を聞きながら、本人の表情や暮らしぶりなどにも気を付けるようにしています。
担当の民生委員がわかるポスターを作成
今年からの取組ですが、高齢者宅の電話の近くに、担当の民生委員さんの名前と連絡先を記入した「民生委員は身近な相談相手です」という大きめのポスターを貼ってもらうようにしています。ヘルパーさんや訪問してきた方が、何かあった時に担当の民生委員さんにすぐに連絡できるようにするためのもので、役に立つとの評判をいただいています。
(世羅町 福祉課 作成)
これからの活動について
町と民児協は、年に1回は事業者さんとの懇談会をもちます。また、町長と民児協会長から、配達員さんや見守り活動に関わっておられる方に感謝し、今後も意識を持ち続けていただくようお礼状を出しています。この事業が忘れられることなく、継続していくことがなにより大切だと考えています。
新しい動き
見守り活動が住民の安全・安心に役に立つことがわかってきましたので、世羅町社会福祉協議会(社協)を中心として、町の一部地域において、「見守りサポート推進事業」という取組が始まっています。これは、各振興区(町内会)が選出した「ふれあいサポーター」が5~20世帯程度を受け持ち、独り暮らし世帯、高齢者世帯、障害者世帯等の日常の見守りを行うというものです。
この事業が町全体に定着すれば、一層きめ細かい見守りができるようになるのではないかと期待しています。
取材後記
世羅町では、民生委員や地域の方々の協力のもと、誰もが安心して暮らし続けることができるよう高齢者等の見守り活動に力を入れてこられました。そして、更に良いものを作ろうと新しい取組にもチャレンジしておられます。そうした姿勢に、地域の知恵と底力を感じました。
世羅町のこの活動は、消費者庁の報告書でも取り上げられています(消費者庁HP 地方消費者行政の充実・強化のための指針(平成24年7月))。
世羅町の取組がモデルとなって広島県全体・日本全体に広がっていけば、人口減少や高齢化に負けない、安全・安心な暮らしが実現できるのではないか、そんな希望を感じる取材でした。
ちなみに、取材に応じていただいた泉谷さんは、当サイトで以前ご紹介した広島県地域女性団体連絡協議会主催の「北部ブロックリーダー研修」で寸劇を披露された地元有志劇団のメンバーでもあり、誠に多岐にわたってご活躍されています。
泉谷さん、貴重なお話をありがとうございました。