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成年後見制度の利用によって消費者トラブルを防いだ事例
判断力が低下している高齢者に、必要のない契約を結ばせるなど、悪質な事業者による消費者トラブルが後を絶ちません。このような方々を保護し、支援するのが成年後見制度です。
成年後見制度の利用によって消費者トラブルを未然に防いだ事例を、広島県生活協同組合連合会に勤める社会福祉士の岡崎晃さんに伺いました。
◆成年後見制度とは
成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力が不十分な人が、いろいろな手続きや契約を行うときに、法律面で保護したり、生活面の支援をすることで、本人の権利や財産を守るための制度です。
成年後見制度には、すでに判断能力が低下している人のための「法定後見制度」と、将来判断能力が低下したときのために準備しておく「任意後見制度」があります。
「法定後見制度」には、本人の判断能力の程度によって、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。(広島県ホームページより)
◆消費者トラブルを未然に防いだ事例紹介
社会福祉士の岡崎晃さんは、広島県社会福祉士会 権利擁護センター「ぱあとなあひろしま」(※1)に会員登録をし、現在、「成年後見人」「補助人」「後見人の監督人」として活動されています。
※1 広島県社会福祉士会 権利擁護センター「ぱあとなあひろしま」は、高齢や障害で判断能力が衰えた方たちの権利擁護のためにできた「成年後見制度」に基づき、後見活動を支えるための様々な活動を展開しているチームです。
★内容
★被補助人Aさん、女性、80歳代
★催眠商法(※2)で高額なサプリメントを購入
※2 会場に人を集め、日用雑貨などを無料や格安で配布し、販売員の巧みな話術で雰囲気を盛り上げて、「もらわねば損、買わねば損」というような一種の催眠状態を作り出し、高額な商品を販売する商法。
★岡崎さんが、被補助人Aさんと面会を行った時に、Aさんの様子がいつもと少し違っていたので、あえてしつこく聞いていくと、
「今朝、友達に誘われ、日用品を安く売っている会場へ行ってきた。
そこで、半額にするからと勧められ、高額なサプリメントを購入してしまった。
お金を支払った後すぐに、「やっぱり必要ない」と思い、断ったが言いくるめられてしまった」という内容でした。
岡崎さんはすぐにAさんと一緒に会場へ行きました。
会場に居た業者に対し「Aさんの補助人であること、Aさんの場合は高額な契約には補助人の同意が必要なこと」を伝えると、クーリング・オフをするまでもなく、すぐに返品に応じました。さらに、今後もAさんとは高額な商品取引をしないように念押しをしました。
また、Aさんに聞くと、同じような形態の店舗から手紙や電話で誘われることが多く、誘われれば、ついつい会場へ行ってしまうそうです。案内のハガキで電話番号が確認できた店舗には、「Aさんには私が補助人として付いているので、商品取引はできません、今後案内もしないでもらいたい」と話をし、Aさんにも「高額な商品取引には私の同意がいるんですよ」と説明して、本人にも納得してもらったとのことです。
岡崎さんに「後見人制度を利用することによって消費者トラブルを防ぐ可能性は高くなりますか?」と質問したところ、「後見がついた、と言うだけで効果があります。被害の未然防止だけでなく、被害の回復にも有効です。私の場合、被後見人の郵便物を転送してもらっていますが、悪質そうな業者からの郵便物がたくさんきます。それだけでも消費者トラブルの未然防止につながっていると思います」と話されていました。
高齢者は次々と商品を購入させられるなど被害額が高額となる傾向があります。非常に深刻な被害であるにもかかわらず、被害の回復は難しいため、判断力の低下がみられる方については、成年後見制度の活用を考えてみてはいかがでしょうか。
◆「後見」「保佐」「補助」の違い
「法定後見制度」には「後見」「保佐」「補助」の3つの類型があります。
参考までに3つの類型の違いを紹介します。
本人の判断能力 | 後見 | 常に判断能力を欠いている方 |
保佐 | 判断能力が著しく不十分な方(しっかりしている時もあるけれど、かなり判断能力が衰えている) | |
補助 | 判断能力が不十分な方(判断能力が少し衰えている) | |
本人への影響 | 後見 | 本人が財産に関する法律行為をする場合に全て成年後見人が代わって行う |
保佐 | 本人は保佐人の同意がなければ重要な行為(※3)ができなくなる | |
補助 | 家庭裁判所で認められた範囲内の行為が、補助人の同意がなければできなくなる | |
保護者の権限 | 後見 | 本人が単独で行った法律行為は取り消せる(日常生活に必要な行為を除く) |
保佐 | 本人が単独で行った重要な行為(※3)は取り消せる | |
補助 | 家庭裁判所で認められた範囲内で、本人が単独で行った行為は取り消せる |
※3 重要な行為-借金、保証人、不動産や財産の得喪、訴訟、相続の承認・放棄、新築・改築・増築などの行為